対人賠償保険、対物賠償保険とは、どういう保険ですか?必要ですか?

自賠責保険で足りない分を補うのが、対人賠償保険です。

自動車事故で発生する損害には、以下が考えられます。

損害 発生する費用 自賠責
の対象
他人を死傷させる 相手やその遺族に対して、逸失利益、慰謝料、治療費などへの損害賠償。
他人の所有物を壊す 相手の車・積載物、建造物などを弁償。 ×
自分及び同乗者が死傷する 自分・同乗者の逸失利益、慰謝料、治療費など。 ×
自分及び同乗者の所有物を壊す 壊れた物の修理代や買い替え費用、代車の費用など。 ×

すべてのドライバーは、自賠責保険(強制保険)に加入していますが、この保険で対応できるのは、他人の身体の損害に対する損害賠償だけです。

しかも、自賠責保険からでる保険金額には、死亡保険金は3000万円、ケガの治療費は120万円というように、上限が設けられています。

自賠責保険では不安な理由で説明したように、自賠責保険だけで対処できるのは、他人の損害の大きさが、全国平均レベルだったときです。

損害が全国平均より大きくなって、自賠責保険の上限を超えたら、超えた分はこちらが負担しなければなりません。

そんなときに役に立つのが、任意保険を構成する保険の一つ、対人賠償保険です。

他人の所有物を壊したときの弁償は、自賠責保険ではできません。そこで対物賠償保険です。

自動車事故で、他人の車や積載物、門や塀、建物などを壊したら、こちらの責任の大きさに応じて弁償しなければなりません。

しかし、上表のとおり、壊れた物を弁償するためのお金は、自賠責保険からはまったく出ません。

一般論として、物の損害は、身体への損害に比べると、大きな金額になりにくいです。それで、自賠責保険の対象外になっているのでしょう。

ただ、ぶつかった相手の車に、たまたま高価な機器が積み込まれていたら、こちらの損害賠償額は跳ね上がります。

まさかに備えて、保険で備えるなら、対物賠償保険です。対物賠償保険も、自動車保険を構成する保険の一つです。

任意の自動車保険加入者のほとんどが、対人賠償保険と対物賠償保険を付加しています。

損害保険料率最低機構の『自動車保険の概況』(2022年度版)によると、自動車保険に加入している人のうち、対人賠償保険と対物賠償保険に加入している人の割合は、以下のとおりです。

  • 対人賠償保険 ・・・ 99.7%
  • 対物賠償保険 ・・・ 99.7%

わずかに対人賠償保険の方が多いですが、ほぼ全員が対人賠償保険・対物賠償保険に加入しています。

というか・・・

個人向け自動車保険の大半で、対人賠償保険・対物賠償保険は、標準装備です。

対人賠償保険は、調べた自動車保険では、すべて無制限の補償になっていました。それが常識なのでしょうか?

対人賠償保険については、加入者には選択の余地がありません。基本補償(必須の補償)になっていて、保険金額は無制限しか選べません。

ほとんどの自動車保険では、対人賠償保険は基本補償(必須の補償)になっていて、保険金額は無制限しか選べません。つまり、加入者には選択の余地がありません。

損害保険料率算出機構『自動車保険の概況』(2022年度版)によると、対人賠償保険の1件あたりの保険金額は1,049,803円です(自賠責保険の保険金額を含みません)。

これだったら、対人賠償保険を無制限とするのは、やりすぎのように見えます。

しかし、対人賠償額は、ひとつまちがうと高額になります。事故でなくなった相手が高額所得者であったり、介護の必要な後遺症が残ったりすると、賠償額は一気に億単位になります。

下表は、『自動車保険の概況』で紹介されていた最近の事例です。

判決 被害者 裁判で認定された損害額
2021年8月 大学生(19歳) 4億5,063万円
2018年11月 中学生(14歳) 3億5,929万円
2017年7月 コンサルタント(50歳) 4億5,375万円
2017年3月 大学院指導員(32歳) 3億9,095万円
2016年3月 公務員(30歳) 4億5,381万円
2016年12月 専門学校教諭(58歳) 4億3,961万円

対人賠償額は、ひとつまちがうと高額になります。事故でなくなった相手が高額所得者であったり、介護の必要な後遺症が残ったりすると、賠償額は一気に億単位になります。

支払えるあてなく億単位の賠償責任を負ってしまうと、こちらの生活も相手の生活も破壊してしまうことに、なりかねません。

そういう意味で、対人賠償保険の保険金額を無制限とするのは、やむを得ないのではないでしょうか。

対物賠償保険は、保険金額を指定できるようですね。保険金額の適正額は、いくらくらいですか?

相手の損害を想定できません。最悪の場合を想定して、対物賠償保険の保険金額は無制限にしましょう。

自賠責保険に、相手の財物(車、バイク、塀、建物、車載の荷物など)を弁償するための補償はありません。よって、自動車保険の対物賠償保険が頼りになります。

もっとも、実績を調べてみると、実際の保険金額は意外と小さいです。

損害保険料率算出機構『自動車保険の概況』(2022年度版)によると、対物賠償保険の1件あたりの保険金額は337,922円でした。

ただし、確率は高くありませんが、対物賠償が高額になる危険はあります。やはり『自動車保険の概況』に掲載されている、物損事故の高額賠償の例をご紹介しましょう。

判決 被害物件 裁判で認定された
損害額
2011年12月 トレーラー 1億1,798万円
2011年11月 店舗 2,221万円
2008年5月 積荷 4,141万円
2004年1月 貨物車・積荷 3,391万円

当たり前のことですが、何を壊すかによって、弁償しなければならない金額は変わります。何を壊すかを選ぶことはできませんから、できる限り保険金を無制限にしておきたいです。

対物賠償保険で、保険料を節約することは、おすすめできません。節約は、自分のための補償から手を付けましょう。

事故の相手の損害を予測することはできません。予測しにくい補償の保険料は、できれば節約の対象にはしたくありません。十分な補償にしておきたいです。

保険料の節約は、対物賠償保険とは、別のところで検討しましょう。

保険料の節約を考えるなら、自分のための補償から手を付けましょう。
たとえば車両保険。自分の車両が最大限の損害を受けたときの損害額は、ある程度想定できます。高価な荷物を載せないように心がければ、想定が大きくぶれることはないでしょう。
預貯金の余裕度などを確認すれば、リスクをおかさずに節約する方法が見つかるかもしれません。

車両保険や人身傷害保険など、自分のための補償を節約して、それでも期待ほど保険料が下がらなければ、そのときは対物賠償保険が、節約のターゲットになるかもしれません。

対物超過修理費用特約の役割がよくわかりません。この特約は、付けたほうが良いのでしょうか?

乗用車の平均使用年数が長くなっている現在、トラブル回避に役立ちそうな特約です。でも、保険料の節約を重視するなら・・・

対物超過修理費用特約は、法律的な責任という意味では、必要のない補償です。

保険から出る車の修理代は、車の市場価格以下

自動車保険で車を修理するとき、自動車保険から出る保険金額は、車の市場価格が上限になります。
このことは、対物賠償保険で相手の車を修理するときも、あるいは車両保険で自分の車を修理するときも、当てはまります。
これは、損保会社が決めているルールではなくて、裁判によって確立されたルールです。

たとえば、事故の相手の車の修理代が50万円だったとします。もし、その車の市場価値が0円なら、車の修理について、こちらは弁償する責任がなくなります。

よって、相手の車の修理代は、相手が自腹を切ることになります。

法律上の責任がなくても、トラブルに発展しやすい

法律上は、弁償しないことが正しくても、相手が素直に納得してくれるとは限りません。

納得できなければ、裁判に訴えてくるかもしれませんし、しつこく弁償を求められたり、嫌がらせをされるかもしれません。

そうした事態を回避するための対物超過修理費用特約です。対物超過修理費用特約を付けておくと、対物賠償保険では足りない金額が、この特約から出ます。

車両価格の低い車が、たくさん走っている

ちなみに、自動車検査登録情報協会『わが国の自動車保有動向』によると、平成26年の乗用車の平均使用年数は12.38年でした。
ほとんどの車両は、10年もたたないうちに、市場価格はゼロになってしまいます。ということは、事故の相手の車の市場価格が、ゼロに近い可能性はわりと高そうです。

法的な責任はなくても、生活上のトラブルを防ぐために、対物超過修理費用特約は、それなりに役に立ちそうです。

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